昨今、企業(法人)が運営するWebサイトやオンラインサービスを狙ったサイバー攻撃が深刻化しています。特に、Webアプリケーションが抱える脆弱性を悪用した攻撃は後を絶ちません。
こうした攻撃を未然に防ぐための有力なセキュリティ対策の一つが、WAF(Web Application Firewall)です。本記事では、「WAFを導入するとどのようなメリットが得られるのか」、「どのような企業に向いているのか」、「導入前に押さえておきたいポイント」などを詳しく解説します。
WAFとは?基本的な仕組みと特徴
WAF(Web Application Firewall)の定義
WAFとは、Webアプリケーション(WebサイトやWebサービス)への通信を監視・解析し、不正なリクエストを検知・遮断するためのセキュリティソリューションです。たとえば、ECサイトのフォームやブログのコメント欄など、ユーザーからの入力を受け付けるアプリケーション層に特化した防御が可能です。
従来のファイアウォールとの違い
- ファイアウォール(Firewall)
ネットワーク層以下の通信制御に主眼を置き、送信元IPアドレスやポート番号などを基準に外部からのアクセスを制限する。 - WAF(Web Application Firewall)
Webアプリケーション層に注目して、入力パラメータやリクエスト内容を細かく検査し、脆弱性を悪用するコードやコマンドが含まれていないかを判断する。
ブラックリスト方式とホワイトリスト方式
- ブラックリスト方式
攻撃パターンやマルウェアのシグネチャを登録しておき、一致した不正アクセスのみを遮断する方式。すでに知られているサイバー攻撃に効果的。 - ホワイトリスト方式
正常な通信パターンをあらかじめ登録し、それ以外は遮断する方式。未知の攻撃にも対応できる反面、設定の手間や誤検知が発生しやすい。
WAFは、こうした仕組みを活用してWebサイトが受ける多種多様なサイバー攻撃から企業(法人)を守ります。
なぜWAF導入が必要なのか?法人における重要性
Webアプリケーションへの攻撃が増加
Webサイトを通じたビジネス展開が当たり前になった今、ECサイトやオンライン受付フォーム、会員登録機能などWebアプリケーションを用いたサービスが急増しています。しかしながら、攻撃者は脆弱性を狙ってあらゆる方法で不正アクセスを試みるため、企業サイトへの攻撃リスクも上がっています。
サイバー攻撃がもたらす企業被害
- 情報漏えいによる信頼失墜
個人情報や機密データが漏えいすると、顧客・取引先からの信用を大きく損ねる可能性があります。 - 業務停止による損失
Webサイトがダウンすると、オンライン上で行われる取引や広告収入などが停止。結果的に売上にもダメージが及びます。 - コスト増加
復旧費用やセキュリティ対策の再構築など、想定外のコストが企業に負担を与えます。
法人であるがゆえの対策強化
法人の場合、顧客データや取引情報など、扱うデータの重要度が高いことが多いです。また、取引先からのセキュリティ要求も厳しく、情報セキュリティ基準(例:PCI DSSやISO27001など)の遵守が求められることもしばしば。WAF導入はこうした基準を満たす手段の一つとしても有効です。
WAFで防御できる主なサイバー攻撃の種類
SQLインジェクション
Webアプリケーションがデータベースを操作する際の脆弱性を狙い、不正なSQL文を送り込む攻撃。個人情報や重要データの盗み出しや、データ改ざんを引き起こす危険があります。
クロスサイトスクリプティング(XSS)
ユーザーが入力フォームなどに悪意あるスクリプトを挿入し、Webサイトを経由してほかのユーザーに攻撃を行う手口。Cookie情報の盗聴や、フィッシングサイトへの誘導などが発生します。
OSコマンドインジェクション
Webアプリケーションが直接OSに命令を実行する機能を悪用し、不正なコマンドを実行させる攻撃。システム権限の奪取やファイルの改ざんなど被害が甚大化しやすいのが特徴です。
DDoS攻撃
大量のアクセスを送りつけることで、Webサーバーやネットワークを過負荷状態にし、サービスを停止に追い込む攻撃。WAFには簡易的なDDoS対策機能を備えているものもあります。
不正ログイン(ブルートフォースアタック)
パスワード総当たり攻撃によって、強制的にユーザーアカウントを乗っ取る行為。WAFとアクセス制御を組み合わせることで、一定回数以上のログイン失敗を遮断するなどの対策が可能です。
WAFを導入するメリット
Webアプリケーション層の対策を強化
ファイアウォールやIPS/IDSだけでは対処しきれないアプリケーション層の脆弱性攻撃にも対応できるため、セキュリティ対策が大幅に強化されます。
インシデント発生時の損害を軽減
万一、脆弱性が判明した際、根本的な修正が完了するまでの暫定措置として、WAFで不正通信を遮断する方法があります。攻撃被害を最小限に抑えられるため、復旧コストや期間の軽減にもつながります。
法的・規格要件への対応
業種によっては、PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ標準)や個人情報保護法など、さまざまな規格や法的要件を満たす必要があります。WAFを導入することで、「Webアプリケーション層への防御ができている」という証明になり、監査や取引先評価にもプラスに働きます。
企業ブランド・信頼性向上
セキュリティ対策を強化していることは、顧客や取引先への安心材料にもなります。実際、セキュリティを重視する大手企業と取引する場合にも、WAF導入などのしっかりした対策をアピールすることで、企業ブランドや信用度を高めることができます。
WAF導入のデメリット・注意点
導入コストや運用コスト
WAFの種類によっては、アプライアンス型(専用機器)の初期費用が高額だったり、ソフトウェア型の場合はサーバー環境の拡張が必要になったりします。また、クラウド型であっても月額費用や通信量に応じたコストが発生します。
ネットワーク構成変更のリスク
WAFを導入する際、ネットワーク構成の変更が必要になるケースがあります。既存システムや他のセキュリティ対策との兼ね合いを十分検証しないまま導入すると、サービス停止リスクが高まるため注意が必要です。
誤検知や誤遮断
WAFのシグネチャ(攻撃検知ルール)を適切に設定しないと、問題のない通信を不正とみなして遮断してしまう恐れがあります。頻繁に運用監視を行い、誤検知が発生した場合は設定をチューニングする作業が必要です。
WAFだけですべてを防げるわけではない
WAFはアプリケーション層の攻撃対策に有効ですが、ネットワーク層での攻撃対策にはファイアウォールやIPS/IDSなども欠かせません。総合的にセキュリティを強化するため、複数の対策を組み合わせることが推奨されます。
WAFの種類と選び方
WAFには大きく分けて、クラウド型・ソフトウェア型・アプライアンス型の3種類があります。
WAF種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
クラウド型 | サービスとしてWAFを利用。自社側では機器設置不要 | 初期費用が安い / 運用負荷が比較的少ない | 月額コストが発生 / カスタマイズ性に制限あり |
ソフトウェア型 | Webサーバーにソフトウェアをインストールして利用 | WAFの導入・更新が容易 / 一部カスタマイズが可能 | サーバー負荷が増す / 運用に専門知識が必要 |
アプライアンス型 | 専用機器をオンプレミス環境に設置し、一元的に制御する | 複数のWebサーバーを一括保護 / ハードウェアの高い処理性能 | 初期費用が高額 / メンテナンスコストがかかりやすい |
選び方のポイントは以下のとおりです。
- 保護対象のWebサイトやアプリケーションの規模・数
- 大規模サイトを多数運営しているなら、アプライアンス型かソフトウェア型が有利になる場合が多い
- 小規模やスモールスタートならクラウド型が導入しやすい
- コスト
- 初期費用を抑えたい場合はクラウド型
- 長期的に大規模運用を行うならトータルコストの見積もりが重要
- 運用体制や専門知識
- 自社でセキュリティチームを持たない場合、サポート体制が手厚いクラウド型を選ぶのも手
導入時のポイント:運用やコストを抑えるには
無料トライアルや実証実験の活用
クラウド型WAFの多くは、一定期間の無料トライアルが用意されています。これを活用し、実際の通信ログや検知状況をチェックすることで、適切な設定や運用コストを把握できます。
専門ベンダーやパートナーのサポート
WAFを導入するには専門的なノウハウが必要です。自社に十分なセキュリティリソースがない法人は、導入実績の豊富なセキュリティベンダーや運用代行サービスを活用することで、誤検知への対処や運用保守の負担を減らせます。
定期的な運用監視とチューニング
セキュリティ対策は導入して終わりではなく、日々変化するサイバー攻撃に対応するため、シグネチャ更新や通信ログの運用監視が必要です。攻撃パターンは絶えず進化するため、定期的なチューニングによって誤検知や抜け漏れを防ぎましょう。
WAF導入の流れと導入後の運用
導入の流れ
- 要件定義・調査:保護対象Webサイトの数や規模、予算などを整理
- WAF製品の選定:クラウド型・ソフトウェア型・アプライアンス型から自社に合ったタイプを検討
- テスト環境での導入・検証:実際の通信をモニタリングし、誤検知や通信遅延がないかを確認
- 本番環境への適用:事前にメンテナンスウィンドウを確保したうえで導入
- 設定最適化と運用開始:運用ログを随時確認して、設定をチューニング
導入後の運用
- シグネチャの定期アップデート
新たな脆弱性や攻撃手口が生まれるため、常に最新のルールを適用する - 通信ログの監視とレポート
攻撃が増えているか、誤検知が起きていないかなどを定期的に確認 - 関連システムとの連携
ファイアウォールやIPS/IDS、監視システム(SIEM)と連動させ、脅威を多層的に対策することで効果を高める
まとめ
WAF(Web Application Firewall)は、Webアプリケーションが抱える脆弱性を悪用したサイバー攻撃に対するセキュリティ対策として、今や法人にとっては必須ともいえる存在です。
- 導入メリットとして、アプリケーション層への強化・被害の最小化・法的/規格要件への準拠・ブランドイメージ向上などが挙げられます。
- 一方で、コスト面や誤検知、運用体制の整備など注意点もあるため、目的や運用体制に応じてクラウド型・ソフトウェア型・アプライアンス型を選択し、導入後の定期的な監視・チューニングも欠かせません。
サイバー攻撃は日々進化しています。法人が運営するWebサービスを安全に守り抜くためには、WAFを柱としつつ、ファイアウォールやIPS/IDSなどを組み合わせた多層防御で、企業のセキュリティを強化していくことが重要です。
この記事が、WAFの導入を検討される法人の皆様のお役に立てれば幸いです。